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インタビュー

2025-02-26

インタビュー

【解明】東京駅前にトップ企業が集まる理由"場の価値"の新セオリー

「デジタルサイネージ広告」「精米所」「気候テック拠点」……。バラバラにも見えるこれらの新規事業が、東京・丸の内で次々と生まれている。しかも1社の単独事業ではなく、複数の企業による共創から生まれた価値創造だ。
この街では、時代に合わせて脱皮を繰り返す「場」と対面コミュニティを介した有機的な結びつきが、偶然の出会いを必然の事業創造へと変えていく。丸の内は、イノベーションを加速させる触媒(カタリスト)となっている。
協業をしたAGCと三菱HCキャピタル、三菱地所の経営陣を交えた鼎談インタビューから、35万人が働くこの街で育まれる新しい価値創造の形を探る。


対面コミュニティが
新規事業を広げる

2025年。企業やオフィスワーカーにとって「働く場」の持つ意味とは何だろうか?
「コア事業でキャッシュを生みながら、新規事業で企業を成長させたい。新しいことを何かやりましょうというときにやっぱりFace to Faceがとっても大事」
こう語るのは、世界トップシェアのガラスメーカー、AGCで執行役員・事業開拓部長を務める若月博氏だ。
AGCが「両利きの経営」(既存事業の深化と新規事業の探索)を推進するなかで、新規事業開発をリードする若月氏は、対面コミュニケーションの価値を再認識している。

「リモートでは伝わらないけど、表情と目と目を合わせてやるっていうのは、迫真の議論がちゃんとできる」。とりわけ新規事業開発では、この対面でのやり取りが特に重要になるという。



「新規事業は、どうしても自分たちだけでは見える範囲が狭い、というのがわれわれの課題でした。そこで重要になるのが、オープンイノベーションという解。(取引先や潜在顧客に)実際に物を見てもらったり、近くで使っていただいたりして、『意外と面白いな』と思っていただけると、可能性は一気に広がります」


わずか1週間で生まれた
異業種協業


AGCの若月氏が語った「場と対面の力」を体現するかのように、丸の内でスピーディーな協業が実現している。

「たぶん僕らみたいな役員クラスの人間がやろうとすると、アポを入れて、誰が行くのか、誰が同行するのかなどと言い始めて、実現できなかったかもしれません」
こう振り返るのは、リースを中心としたアセットファイナンスサービスを提供する三菱HCキャピタルで取締役 常務執行役員を務める佐藤晴彦氏だ。

佐藤氏が具体例として挙げたのは、AGCと三菱HCキャピタル、ジェイアール東日本企画(jeki)の3社によるデジタルサイネージ広告の新規事業だ。
AGCが開発した「ミラリア®」と名付けられたディスプレイ一体型ミラーは、鏡の反射性とディスプレイの表示視認性を高品質で両立させる革新的な技術だ。これを核に、三菱HCキャピタルの顧客基盤、jekiの広告知見を組み合わせた新たな事業が生まれた。




3社は丸の内エリアのオフィスビル、商業施設、公共交通機関内に点在するデジタルサイネージ広告を連動させる新しいサービスの開発に着手。35万人の就業者の動線に沿った効果的な広告展開を目指している。
この異業種3社の出会いの場となったのが、丸の内エリアを中心に産・官・学・街の連携で事業創出を目指すTMIP(ティーミップ:Tokyo Marunouchi Innovation Platform)だ。大企業だけでなくスタートアップやパートナー企業300団体が参画するこの共創コミュニティでは、日頃は接点の少ない企業同士も気軽に対話できる場が用意されている。
「AGCのディスプレイ一体型ミラーの話を、TMIPが開催する交流イベントで弊社の担当者がたまたま知り、そこから直接、担当者レベルで相談して1週間ほどで座組が決まった。偶然のようだが、これはTMIPを活用した結果であり、必然だったと感じている」(三菱HCキャピタルの佐藤氏)


20年前から共創の場づくり。
誕生したTMIP


丸の内エリアを中心に、三菱地所が運営する共創コミュニティ「TMIP」。その源流は、2000年に立ち上げたベンチャー支援組織「丸の内フロンティア」にさかのぼる。

「今でこそ、このような共創コミュニティは多くありますが、われわれは20年前から丸の内エリアの企業が交流できる場をつくってきました」と、三菱地所の執行役常務、荒木治彦氏。

その発展形として2019年に誕生したTMIPは、大企業の新規事業創出支援や大企業とスタートアップ、産・官・学・街とのオープンイノベーションを促進するプラットフォームとして機能している。

TMIPでは新規事業担当者が集まり、各社の抱える課題感を共有する情報交換の場として活用されてきた。
交流が起点となり、大企業同士でパートナーシップを組み、素早く事業検証を進めることで共創による事業化までを後押ししている。

首都圏だけでも数多くのオープンイノベーションの拠点やコミュニティがある。丸の内がもつ独自性は何だろうか。
「東京駅という立地は、グローバルな観点からも大きな価値があります。海外からのお客様やパートナーのアクセスが良く、コミュニケーションが自然と活発化する。それがイノベーションを加速させることにつながっています」(AGCの若月氏)


今ではこうした交流や共創が「自然発生的」に起こっているが、これには実は長年にわたる街の仕掛けがあった。

30年前、丸の内は「世界一のインタラクション」
目指す決断をした

1890年、明治政府からの払い下げで幕を開けた丸の内の歴史。1894年には丸の内で初の近代的オフィスビル「三菱一号館」が竣工し、その20年後の1914年に東京駅が完成した。以来、日本のビジネスシーンを象徴してきた丸の内の大きな転換点となったのは、1995年の丸ビル建て替え発表だった。
「新たな丸ビルを構想する際、単なるオフィスビルの建て替えではなく、“まちづくり"そのものの形を大きく変えることを決断しました。目指したのは、『世界で最もインタラクション(相互作用)が活発なまち』です」(三菱地所の荒木氏)。
この30年前の決断は、街の姿を大きく変えていった。


建て替えられた丸ビルや新丸ビルが建つ新しい丸の内エリアには、オフィスだけでなく、商業施設やホール、ホテル、サービスアパートメントなど、多様な機能が組み込まれた。並行して進められた仲通りの整備では、車道を縮小して歩道を拡げ、石畳を敷き詰めることで、人々が行き交う街並みが生まれた。
1989年に三菱商事に入社し、35年間にわたり丸の内エリアの企業で働いてきた佐藤氏は身をもって変化を感じてきた。
「若い頃から仕事をしていて感じたのは、丸の内エリアは銀行、重工、電機、リースなど幅広い業種の企業が揃っているビジネスがやりやすい場所でした。今、オープンイノベーションってみんな言いますけど、この街では自然に実践できていたんじゃないかな」


かつてはスーツ姿のビジネスパーソンが中心だった街も、いまではベビーカーを押した家族連れなど幅広い層が訪れるようになった。仲通りでは企業対抗の綱引き大会が開催され、普段は接点のない企業の社員たちが一堂に会する人気イベントとなっている。
現在は約5,000の事業所と35万人の就業者が集まり、オフィスと商業、文化が共存する「都市型コミュニティ」へと進化。「銀行・証券とのお付き合いから新しいスタートアップをご紹介いただいたり、われわれだけでは思いつかないような使い方のアイデアをいただいたり」とAGCの若月氏が語るように、この街での出会いが新たな可能性を開く。


都心の“精米所”が生み出す
新たな価値

そして2024年、この街の進化を象徴するような実験も始まった。企業間の共創から生まれた、ある意外なスポット。
それは精米所である。

三菱地所は、社内提案制度から生まれた新規事業として、丸の内エリアに500以上存在する飲食テナントを一つの巨大チェーンと見立てた共同調達プラットフォーム「MEC PANTRY」を構築。その第一弾として、お米の共同調達を目的とした「丸の内精米店」を国際ビルの一角に開設した。
「お米は精米したてが一番おいしいものです。ならば丸の内に精米所を設けて、それをエリアの飲食テナントに届けることで、単店では実現できないスケールメリットでコスト削減につなげつつ、丸の内ワーカーと来街者に喜んでもらおうと考えました。お米の価格が高騰するなか、飲食テナントからの評判はよかったと聞いています」と、荒木氏は語る。


小池精米店の小池理雄氏(左)から精米指導を受ける三菱地所の社員=提供

千葉県匝瑳市や鳥取県江府町など日本各地の生産者から仕入れたお米を、受注ごとにオンデマンドで精米し、エリア内の各店舗へ配送するという仕組み。「三菱HCキャピタル」と協働して実現した。
「われわれは自治体を含めた産地など顧客基盤に強みがある。そのネットワークを活用して、地域創生にもつなげていきたい」と、佐藤氏。
「日本一家賃の高い精米所かもしれないが、家賃以上の価値はあるはず」と荒木氏。この実験は都市部の飲食店と地方の生産者をつなぎ、新たな価値循環を生み出す挑戦でもある。

イノベーションを加速させるアワードの創設

こうした新しい価値創造の試みを、より大きなムーブメントへと発展させるため、TMIPはさらなる進化を遂げている。2023年に創設した「TMIP Innovation Award」は、大企業発の新規事業創出を表彰する制度だ。

初年度は50の事業がエントリーし、京セラの食物アレルギー対応サービス「matoil」が最優秀賞を受賞。続く2024年には、竹中工務店の建築リユース部材のプラットフォーム事業「Archi-Hub」が最優秀賞に輝くなど、着実に実績を重ねている。

「このアワードへの参加で、社内で取り組んできた新規事業を広く知ってもらえる。表彰されることで、社内での事業推進もよりスムーズになる可能性があります」と、三菱地所の荒木氏は解説する。

新規事業への支援はほかにも、インターンシップ募集の支援や、総務・経理業務の代行、さらにはCEOだけを集めた懇親会の開催など、実務ニーズに応える形で展開している。

2024年10月には、国内初の気候テック拠点「0 Club(ゼロクラブ)」が新大手町ビルで稼働を始めた。これまでもフィンテック特化型の「FINOLAB」、ディープテック特化型の「Inspired.Lab」など、テーマ別のイノベーション拠点を次々と立ち上げてきた。

東京大学との協働による社会人向けリスキリングプログラムの開設や、研究者ネットワークとの連携など、アカデミアの知見を活かした新しい取り組みも展開。従来のそれぞれのプレーヤーの枠を超えた協創を加速させている。
これらの拠点は、それぞれが独自の価値を生み出しながら、丸の内と周辺エリア一帯のイノベーションの創出力を高めていると言えるだろう。

共創を育む丸の内と
イノベーションの未来


「0 Club(ゼロクラブ)」で開かれたMarunouchi Crossing 2024のトークセッション
=丹野雄二撮影


企業の担当者同士による「偶然の出会い」が「必然の共創」へと化学変化を起こすこの街。その可能性について、3人の経営陣は異なる角度から光を当てる。
「新規事業を担当する人たちが集まって、同じ志を持つ者同士で出会える場というのは、非常に貴重です」と佐藤氏は語る。
若月氏は、この場所での予期せぬ出会いがもたらす価値を指摘する。
「われわれの役割は、人と人、企業と企業をつなぐだけではありません。三菱地所は場、そしていろいろな機会を提供してコミュニティを運営しています」と、荒木氏は付け加える。

近代日本の黎明期、重要な経済インフラであるオフィス街として誕生した丸の内は、時代や社会の要請に先駆け、街の姿や形、機能を変え続けてきた。今後、イノベーション創出の場としての機能をさらに強め、日本経済の新たな価値を創造するエリアとして求心力を増していく。

執筆:工藤千秋
撮影:竹井俊晴
デザイン:久須美はるな
編集:野上英文

NewsPicks Brand Designにて取材・掲載されたものを当社で許諾を得て公開しております。
2025-02-07 NewsPicks Brand Design

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