CASE FILE

写真:林氏と犬丸氏

東京丸の内集客力多様性を
組織の力に

ユーザベースの新オフィスに見る、街の力を取り込む意義とデザイン

株式会社ユーザベース クリエイティブディクレターの犬丸 イレナ氏(写真左)とCulture Divisionの林 淳一朗氏

ビジネス情報のプラットフォーマーであるユーザベースは2022年7月、本社オフィスを東京丸の内(三菱ビル)へと移転し、併せてオフィススペースを拡大させた。時間と場所を選ばない自由な働き方を採用する同社は、どういった機能を新オフィスに持たせようとしているか。またなぜ、移転先として丸の内を選び、移転によってどのような効果があったのか。オフィス移転のプロジェクトを推進したCulture Divisionの林 淳一朗氏とクリエイティブディクレターの犬丸 イレナ氏に話を伺った。

PROFILE

お客さまプロフィール

株式会社ユーザベース

設立 2008年
従業員数 1,134名(2023年1月1日現在)
事業内容 企業活動の意思決定を支えるビジネス情報インフラの提供

「共創」「熱」「象徴」の場を丸の内で築き創業からの想いカタチに

「経済情報の力で、誰もがビジネスを楽しめる世界をつくる」──。この全社共通のパーパス(事業目的)のもと、2008年の設立以来、経済情報プラットフォーム「SPEEDA」やソーシャル経済メディア「NewsPicks」の事業を手がけ、急速な成長、発展を遂げてきたのがユーザベースだ。業容の拡大とともに従業員数もハイペースで増え続け、2019年ごろには本社オフィスに人員を収容するのが困難な状況になっていた。

もっとも、同社の場合、働く場所と時間に制約のないワークスタイルを新型コロナウイルス感染症(以下、「コロナ」)が流行する以前から採用し、コロナ発生時のリモートワーク体制への移行もスムーズに行われ、業務に大きな支障をきたすこともなかったという。それでも丸の内への本社移転とスペース拡大という道を選んだのはなぜか。

写真:林氏
「オフィスにはリモートで実現しえない価値があり、オフィス・リモート両方のワーク環境の価値を向上させることが、働き手の能力を最大限に引き出すことにつながると考えています」と、林氏は語る。

林 淳一朗氏(以下、「林」):働く場所と時間に制約を設けないというのは当社の価値観に根差した方針です。この方針のもとで働く各人とチームがそれぞれの能力を最大限に発揮してきたからこそ、当社の成長と発展があったといえます。そのような当社において、オフィスかリモートかによらず働く場所に制限をかけるようなことはあってはならず、スペース不足からオフィスで働きたい従業員が働けないといった状況は是が非でも避ける必要がありました。

このような状況下、同社は本社オフィスの移転・拡大のプロジェクトをスタートさせた。その陣頭指揮を執ったのはユーザベースの共同創業者で現在は非常勤取締役の職務を担っている梅田 優祐氏だ。

:梅田は、プロジェクトを推進するにあたり、これからのオフィスの中心的な価値(=コアバリュー)をオフィスコンセプトとしてまとめ上げることから始めました。その結果として設定された新オフィスのコンセプトは「共創が起こる場所」「熱を生む場所」「象徴となる場所」の3つです。それらを実現するうえで最適なオフィスの立地として丸の内が選ばれ、今日に至っています。

3つのコアバリュー

  1. ❶「共創」が起こる場所
  2. ❷「熱」を生む場所
  3. ❸「象徴」となる場所

:梅田には、ユーザベースを立ち上げたころから、経済情報プラットフォームの主要な顧客企業、あるいは顧客となりうる企業が集積する丸の内に本社を構えたいという想いがありました。つまり今回のオフィス移転は、創業時からの想いを、新しいオフィスコンセプトのもとカタチにする取り組みだったのです。

写真:ユーザベースの新オフィス
ユーザベースの新オフィスは丸の内・三菱ビルの1F、2Fに立地。写真のデジタルサイネージに流れる経済情報はリアルタイムのもので、同社が提供する「経済情報プラットフォーム」を象徴する役割を果たしている。

設計・デザインの工夫と丸の内の集客力で共創」と「」の勢いを加速させる

写真:犬丸氏
「自分とは異なる才能や視点、見解を受け入れるオープンコミュニケーションは当社の文化。新オフィスの開放的なデザインでその文化を体現しています」と、犬丸氏はいう。

前述のオフィスコンセプトと移転先の決定にもとづいて、オフィス設計の協力会社のコンペ・選定が行われ、設計が進められた。このプロセスはオフィスコンセプトを巧みに体現するデザインにつながっている。

犬丸 イレナ氏(以下、「犬丸」):例えば、新オフィスでは、外部にオープンにできないミーティングを行う場所以外は、組織と組織、あるいは人と人とを隔てる間仕切りがありません。従業員たちの憩いの場としてカフェも設置されています。これらはすべて、リモートワーク環境では起こりえないような、組織・チームの壁を越えた従業員同士の偶発的な出会いと共創を起こりやすくする設計上の工夫です。見た目にも非常に開放的で美しく仕上がったので、今後の効果を期待しています。

写真:UZABASE Café
社員たちの憩いの場であり、偶発的な出会いの場でもある「Cafe」。
写真:新オフィス
新オフィスでは個々人が仕事をする固定席はなく、間仕切りもない。

こうした開放的な設計に加えて、新オフィスには「街」をイメージさせる設計上の工夫も随所に凝らされている。

犬丸:新オフィスは、ユーザベースのメンバーが集まる「街」のような空間にすることを意識しました。オフィス内に、普通は屋外の歩道などにしか使わない縁石を多用した道を設け、まるで街中を歩いているような環境を演出しています。これは、街の公共空間のような開放感をデザインによって自社内に取り込み、コミュニケーションが生まれやすいオフィスを目指すための仕掛けの一つです。新オフィスに移転してからは、毎週開催している全社ミーティングにリアルで参加する従業員が増えたり、お客さまが集まるイベントをより多く催したりして、「共創」と「熱」を生む機会を押し広げようと考えてきました。

このアイデアはすでに目に見える効果として現れている。丸の内へのオフィスを移転してからの2カ月弱の間で、社外向けのイベントがおよそ20回も開催されたという。

:丸の内へのオフィス移転以降、営業部門からは以前に比べ圧倒的にお客さまをオフィスにお招きしやすくなって、関係も強化されたとの声が多く聞かれており、その効果が早くも目に見え始めたと感じています。また、丸の内で開放的なオフィスを構えたことは、人材採用の面でもプラスに作用し、入社希望者が当社の生業と文化を理解し、信頼と共感を寄せるスピードが高まっています。

写真:新オフィス内
縁石を配置した、新オフィス内の長さ100m以上の道は、屋外の歩道を想起させる。オフィス内移動用の電動キックボードも用意。

丸の内の多様性によるイノベーションの活性化にも期待をかける

:丸の内にオフィスを構えて驚かされたことの一つは、実に多彩な企業や人がこの街に集まっているという事実。これは、当社にとってイノベーションを引き起こす機会が目前に広がっていることを意味します。これからは、オープンマインドな社風を反映した開放的な新オフィスを活かし、街の延長線上の空間として誰もが気兼ねなく立ち寄れるような場所を目指しながら、当社も丸の内の多様性をどんどん取り込み、自らの力に転換していきたいと考えています。

犬丸:丸の内は、仲通りに象徴されるように美しく広々とした公共空間が魅力的な街だと感じています。海外では「公共の場は皆が自由に使って良い場所」と見なす文化が根づいている国もあり、ここ丸の内でも、私たちのようなワーカーや来街者などが公共空間でのびのびと雑談に興じる場面が、そこかしこで見られるようになったら面白いなと思っています。そうなれば、多様なスペシャリティやバックグラウンドを持つ人たちの輪がエリアの各所で自ずと出来上がり、事業のイノベーションにつながる人と出会える機会もグンと増えていくと確信しています。

写真:犬丸氏と林氏
犬丸氏と林氏は、丸の内のこれからにも期待をかける。
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